某月某日
桁引き船団の友船に無線が入る。
「 ギス拾ってけれ 」
「 そんな物なんする 」
「 崖下の奴が食いたがってる 」と
各桁船のブリッジの船頭から甲板員にダミ声で指令が飛ぶ
「 ギス拾え 」浜ではギシとは言わないギスと呼ぶ
甲板員はカジカのトゲでカッパに穴を開け長靴に穴を開け 破れた所から水が入り身体を濡らすカジカ類を嫌う。
桁引きで一網打尽に揚がって来てしまう魚に好き嫌いは言ってられないが
波のピッチが短い北の海で時間との勝負で魚の選別をしなければない 箱代にも氷代にもならない魚は処分される。
その代表がギシカジカで漁をする場所によっては値の付かないギシカジカが大量に獲れる。
低気圧の余波で船の航海灯が波で見えなくなるような夜に船頭から電話が鳴る。
「 浜さこい 」と
煌々と照らされる船着き場で高く積まれた木箱を みんなで形のいいのを選んで持って来たのだから全部持って行けと言う。
まだ低気圧の余波が残るなかに
「 久しぶりに漁に出るから 何か食いたい魚はないか 」と寄ってくれた。
俺はギシを5匹程度あればいいと言ったのだが
各船から形のいい物を選んでトロ箱で6箱もが来た。
一匹たりとも無駄には出来ない
この手に怪我をしながらギシカジカをサバクのだが魚の中では超が付く美味しい魚の分類にはいる。
一夜干しや唐揚げ、鍋物や飯寿司や切込み等々にすると絶品と言っていい魚なのだが
市場では全く値段も付かずに箱代どころか氷代にもならない
この大量に撮れる魚に値が付けば選別してる時に背中から波を被っても、すこしは報われると思うのだが
5匹だけだと思った魚を6箱さばくのにあっちに持って行き こっちに持って行きと翌日と丸一日掛かった。
貰い手のない残り2箱は深夜まで掛かりさばき冷凍と一夜干しにした。
俺はすべての料理は柳刃包丁で済ます。 これさえあれば生活にはなんの不自由はない
このギシカジカは刺身で食ったらフグ以上に美味いと思うが まだ試した事はないので食ってみたかったが
深夜にトロ箱二つをサバいた時にはそんな気力は残っていなかった。
浜では誰もやってると思うが俺は魚を刺身以外は真水で洗う事はない浜に行き海水でじゃぶじゃぶと洗う。 それが浜の魚の美味い秘訣と思うのだが
そうしないでもギシカジカは本当に美味い魚なのだ。
特にひれの辺りが絶品なので値が付く事を願ってやまない
今頃、奴はギスで苦労したべと この辺の海でさえブリッジの窓が吹っ飛ぶと言う。
漁師達のクックと笑ってる笑い顔が目に浮かぶ