追いかけて雪国~(中)

12月30日 

たいして入っていない財布をお父上の家に落としたのを気付かずに、能登珠洲市宝立町を10時に辞する。
結構な距離を走ってから携帯に連絡が入る。 
なんで携帯番号を教えていないのに俺の番号が分かったのかと思っていたら、除雪機の配達場所を聞くために、携帯からお父上の携帯に電話をしたのを、今度は着信履歴から逆にピポッパと掛けてくれたのでした。 

帰りは、中歌下町内の宝引き新年会が二日にあり、それまでに帰ればよいので、ゆっくりと能登の景色などを見て走った。

能登和倉で軽油45リッターを給油する。

12月30日 14:00

『氷見 道の駅』で大好きな魚屋さんを見学する。 
なんたって魚が大好きで、見てるだけで満足するのである。 
中の一軒で、お婆ちゃんがやっている小さな魚の唐揚げを売っている店があった。
オレは水槽で、一センチほどの鯛に似たタイリクバラタナゴに、グラム二百円もするエサを早く鯛になってくれとせっせと与えて飼っているが、タナゴによく似た魚が佃煮になっていた。 
「 お~お、お前達こんな姿になって」とパックの中をじっと見ていると、お婆ちゃんがなにを思ったか、やおらその辺りにあった1パックを持って行きなさいと手渡してくれた。
  
28日から走り続けて、途中、山形の『あぽん西浜』で風呂を入ったきりで、作業服の着たきり雀。 見ようによっては体のいいのホームレス状態でした。
オレは一瞬迷ったが、一度無くし掛けた財布から、一番沢山ある青っぽい紙幣を一枚だけつまみ出し、 「幾らだべ~」と聞いた。 
お婆ちゃんは、さらにエビの天ぷらのパックなど4パックを重ねて、全部で千円でいいとの事だった。  
「エビの天ぷらは、年越しのソバに乗っけて食べなさい 」と言った。 
以前大阪の恵美須で暮らしていたときに、通天閣のうどん屋に行くと、自分で持ってきた天ぷらを、よれた親父が店の素うどんに入れて食った。  
店の親父も何事もなかったようにしているのを見て、大阪が好きになった事を思い出した。

『氷見道の駅』の佃煮屋さんは、年配のお婆ちゃんが営業している。  

だいたい、高齢者のやっている店は、自分の年金をつぎ込んでいる店が多いと思う。
それでも人が来るあいだは頑張り続けるのでしょう。 
  
店で買い物する時は、品物に、目に見えないお婆ちゃんの年金が乗っかって来る気がしながら買い物をしているのですが、
「全部で1000円でいいよ」と言うお婆ちゃんの言葉に、もの凄く得したような少々複雑な気分になりました。
そんな気分も、タナゴに似た佃煮がカリカリとして美味かったので、どこかに吹っ飛んでしまった。  
オレは水槽の魚達も佃煮にしたら美味いのかなと思いながら、カリカリポリポリとタナゴ似にた小魚を食いながら運転して、氷見でいきなり道を間違えた。

古い地図では三町合併で地名が変わり、なかなか走れない。
最近思うに、三町合併は、元締めの小泉屋と両替商の竹中屋が、地図瓦版屋と企んだ陰謀ではと思うのである。
このままでは一度だけ行ったことのある黒部峡谷を見損ねかねない。
暗くなった頃に魚津到着。

12月30日 夕方

富山イオン魚津店に入り、お姉さんに地図をくれと言った。
「道路地図ですか?」と言われ、オレは「地図は道路地図以外に何かあるのか~」と、とっさに雪国の可愛いお姉さんを
いじめるように言ってしまった。

お姉さんはモロさげすむ目で、「あ~あそうですね、地図と言えば道路地図ですね!」と言った。   
ばかでかいイオンの書籍売り場の中の、さらに地図売り場まで連れて行ってくれたが、そこで見たものは、さすが富山山岳地帯を抱えるだけあって、道路地図ばかりではありませんでした。

山岳地図から道路地図までさまざまで、道路地図かと聞かれた訳が初めて分かったのです。
なんでも自分の尺度でものを言ってはイカンと思いながら、田舎者の俺は、探すフリしながらお姉さんと目を合わさない様に後向いて道路地図を探した。 
それにしてもデカイ。増毛図書館の何倍もあるのである。
「まいったか田舎者~」とのお姉さんの圧倒的な気が、背中の肩胛骨あたりからオレの可憐なハートに向け、居合い抜きの刃{やえば}のようにグッサと刺さる。
 
『親不知』に入る。
この親不知の様な一般道を通るたびに、プロのドライバーは凄いと感心するのである。
大型トラックは、幅2.5メーター。 通常の道路幅は3メーター強なのに、プロのドライバーは決して中年バイク少年のようにインからアウトに抜けて、オリャーとセンターラインを割らないのである。  
雪道のカーブでの正面衝突事故は、左カーブを飛び出す車が大半を占めますが、その中で見逃しては行けないのは、右カーブ車がセンターラインを割り、相手方をビックリさせて急ブレーキを踏ませると、ロックしたタイヤは地面とは点接触になるので任意の方向には車は行きません。 
タイヤのロックした対向車は左カーブにはみ出すことになります。
カーブの場合は、対向車を驚かす事による正面衝突事故があまりにも多いのです。  
プロドライバーは、対向車にどれだけ迷惑を掛ける事かを知っているので、安岡力也似のダンプドライバーでもカーブでは決してセンターラインを割りません。